萩尾望都のマンガで一番好きなのは「11人いる!」です。
初めて読んだのは、おそらく小学生のときだと思いますが、いまでもiPadに入れていて、たまに読んでいる名作。
萩尾望都のお気に入りのマンガは他にも、ものすごくたくさんありますが、今日ご紹介したいのは「残酷な神が支配する」
はっきりいって萩尾望都作品のなかでも、群を抜いて骨太な挑戦作といえるのではないでしょうか。第一回手塚治虫文化賞の優秀賞を受賞した作品です。
腹にグッと気合いを入れて読み始めましょう。
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主人公はアメリカのボストンで母と2人で暮らしている男子高校生のジェルミ。美しい陶器のような滑らかな肌に、黒髪の天然パーマで、まつげの長い美少年です。
ジェルミの穏やかな日々は、母があるとき、英国人紳士のグレッグと恋に落ちて、婚約したことから、ガラッと大きく変わり始めます。
母の恋人であるグレッグが、ジェルミに肉体関係を迫ってきたのです。
もし、自分を拒むのであれば、母との婚約を破棄すると、脅してくるグレッグ。母の精神的な脆さを知っているジェルミは「もし、グレッグに捨てられたら、母が病んでしまうかもしれない」と危惧して、一度だけなら……と受け容れてしまいます。
それがジェルミにとって、地獄の日々のはじまりとなりました。
母がグレッグと結婚して、ジェルミも一緒にイギリスに引っ越すと、グレッグの性的虐待はエスカレート。ジェルミは精神的にも肉体的にも、どんどん追い詰められていきます。
このあたりの描写は読んでいて、本当にどきどきするほど、恐ろしく生々しいものがあります。思わず、なかば目を閉じてページをめくりたくもなりますが、これが虐待の実態でもあるのでしょう。
ジェルミの母親と、グレッグの連れ子でありジェルミの義兄となったイアンは、そんなジェルミの様子にまったく気づく様子がありません。
イアンは、ジェルミと同じイギリス寄宿学校の上級生ですが、彼からするとジェルミは「気まぐれで繊細なおかしな奴」でしかないのです。
誰にも相談できず、帰省するたびに虐待が繰り返されて苦しむジェルミには、だんだんとひとつの思いが高まってきます。
この苦しみから逃れるためには、グレッグを殺すしかない……。
追い詰められたジェルミがどんな行動に出るのか。
そして何も知らなかったイアンが、どのように真相に辿り着くのか。
そしてジェルミが負った大きすぎる心の傷に、癒やしがやってくることはあるのか……。
私たちの精神の深いところにさまざまなものを投げかけてくる、重厚で、たましいを揺さぶられる物語です。
マンガという手法でこの内容を描ききる萩尾望都の才能には本当に脱帽するしかありません。マンガだからこそ、わたしたちの想像力を掻き立てる奥行きの深さがあります。
人間の体験し得る、痛みと傷。
愛とは何か、生きるとは何かということを深く考えさせられる物語です。
ぜひ腹をきめて、一気に読んでほしいです。