おばあちゃんの宝物

前に私の母親の実家が岩手県の水沢というところにあって、そこで幼かった頃の私が大勢の親族たちや妖怪に囲まれて育ったという話「ノスタルジア」をご紹介しました。

ノスタルジア
母の実家が岩手県の水沢というところにあります。いまは奥州市と名前が変わりました。奥の細道の奥州ですね。風情があって、美しい名称だと思います。 母の家は農家で、古い日本家屋。母が小学3年の時に建てたというので、もう還暦を過ぎてい...

高校を卒業するまでその家で過ごした私の母は8人兄弟という子だくさん一家でしたが、母以外の兄弟が7人全員男の子だったため、大家族の中で唯一の女の子として特別な地位に君臨し、随分と可愛がってもらっていたようです。その母の産んだ子どもが、私と兄ですが、女の子は私ひとり。そのためか、岩手の母方のおばあちゃんからは「唯一の女の子が産んだ、唯一の女の子の孫」ということで、いつもほんのすこしだけ、たくさんいる他の孫たちよりも大事にされていたように感じるんですね。

それと同時に、おばあちゃんの持っていた感受性のようなものを引き継いでいるという感覚もあって、そばにいるのが好きだったのですが、一緒にいると特別な親密さを感じていました。たとえば「妖怪と遊ぶ」にしてもそうですが、見えない世界と感応してしまう感受性は、この岩手のおばあちゃん由来のものであるという確信があるのです。

私が小学校の高学年の頃に、おばあちゃんが「みんなには内緒だよ」といって、私だけにこっそりと宝物を見せてくれたことがありました。他の親戚たちはみんな居間にいて、誰かしらの従姉妹もいたはずなのに、そのとき、ふたりだけでおばあちゃんの部屋にいたのです。

ご存知の方はいらっしゃるでしょうか。『ケサランパサラン』という謎の生物を。ふわふわとした、たんぽぽの綿毛のようであり、植物のようであり、動物の毛のようでもあり、しかしそれは「生きている」のです。

おばあちゃんは誰にも見つからないように、家族にも内緒でそれを飼っていたのです。おばあちゃんは私物を私室の押入れの中の茶箱に入れていたのですが、大きな茶箱の片隅に、桐の箱に入れて、大事にそれを飼っていました。

それはおばあちゃんが子どもの頃に手に入れて以来、一番の宝物で、それからずっと飼っているのだと話していました。この不思議な生物、ケサランパサランは、決して他人には見られてはならず、なんと持ち主でさえも年に1度しか見てはいけないのです!!

だからおばあちゃんはそれをまるでご神体のように大切にしていて、それを大切に慈しむ姿が本当に少女のように純粋だったので、少女だった私も心をうたれて、一緒に祈ったのでした。ケサランパサランはそうやって持ち主が大切に飼い続けることで、その人をしあわせにしてくれるというのです。

私が成人する頃におばあちゃんが亡くなって、それから大分経った頃に母親と岩手のおうちへ遊びに行ったとき、急に思い出して「そういえば、おばあちゃんのケサランパサランって、どうなったの? 誰か飼ってるの?」と尋ねてみました。母も伯母も従姉妹も揃って「???」という表情を浮かべています。

「ケサランパサランだよ。 おばあちゃんの宝物で、茶箱にしまって、大事に飼ってたでしょ」

なんと、私の他に誰ひとりとして、おばあちゃんのケサランパサランの存在を知らされていなかったのでした。ずーっと一緒に住んでいた内孫の従姉妹でさえ「見たこともない」といいます。一緒におばあちゃんの茶箱を探してみたけれど、着物が何枚かあるばかりで、あの綿毛の入った桐箱は見つかりませんでした。

いまでもあのときに見たふわふわのイメージと、おばあちゃんと一緒に祈った特別な瞬間が切り取られたかのように、私の脳裏に存在しています。そしてその光景がおばあちゃんにとってのケサランパサランのように、私にとっては、かけがえのない、とても大切な宝物なのです。

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