『狐笛のかなた』/ 著 上橋菜穂子  

旅のおともに、なんとなく買った「狐笛のかなた」ですが、強くおすすめしたい大好きな一冊! この作品をきっかけに上橋菜穂子さんを知りました。上橋菜穂子作品と言えば「精霊の守り人」や「鹿の王」が有名ですね。

 

飛行機のなかで読み始めたら、物語のなかにグイグイ引き込まれてしまい、宿に着いても出かけずに、最後まで一気に読んでしまいました!! 「どうして今まで、この人の本に出会わずにきたのだろう」と、なんだか損をしていたような気分になったほどです。そしてもちろん、上橋菜穂子作品の大ファンになりました。

 

主人公は、産婆のお婆さんと里の外で暮らす少女、小夜(さよ)。彼女は自分と同世代の子たちとが、なんとなく違うことを感じています。

物語は、狂ったように追いかけてくる犬から逃げる子狐を小夜が助ける場面から始まります。この出だしからドキドキの緊迫感。この作品は、もう最初から面白いのです。小夜に助けられて、人のやさしさに触れた子狐の心の動きに、せつなくなります。胸がチクッとしたり、キューッとなったかと思えば、ジンワリとあたたかい気持ちになったり。もう、とても感情が忙しい(笑)

実をいうと、この最初の場面で、すでに涙があふれました。早すぎる(笑) それくらい、一気にこの世界にはまり込んでしまうのです。これぞ、上橋菜穂子マジック! 読み手は、初っ端からすでに心を掴まれることでしょう(笑)

ある日、小夜は、幼い頃に起きた出来事と、母の秘密を知ることになります。平和な暮らしが突然、さまざまな人々の思惑や信念が渦巻くなかへ放り込まれたのです。

小夜の母は、呪者でした。敵対する者たちが呪い合う世界の住人です。相手を憎み、呪いをかけて、騙しあう関係は、何年も何十年も続いているものでした。

小夜も母と同じように、呪者の能力を持っていることに気づきます。それゆえに、その世界に巻き込まれてしまいます……。

この物語には、呪者や使い魔というものたちが登場します。呪者は自分の都合で、使い魔の命を操り、思惑通りに命じて従わせます。小夜が冒頭で助けた子狐もまた、この世界に生きるものでした。2人が再び会うことによって、何が起きるのか……!?

 

この作品は、ファンタジーです。しかし、登場人物のひとりひとりに親近感を持ちました。彼らはまるで、わたしたちを表しているようです。

 

いつまで戦いを続けるのか。なにを守るために、いがみあっているのか。何年も何十年も呪い続けているものを終わらせることはできないのか。

そんな風に、小夜に言われているような気がしました。大人の意地やプライドは、小夜の前では通用しません。「あなたの才能の使い方は、ほんとにそれでいいのか?」と、突いてきます。

 

人間の持つエゴ。そのエゴに利用される使い魔。そこに疑問を持たずに生きてきた者たちが、純粋な小夜の想いと意志によって気持ちが揺れ動きはじめます。わたしたちが、何を大事にして生きるべきなのかを考えさせられます。

 

描写もすごい! 食べ物が出てくると、食いしん坊のわたしは、想像力が掻き立てられてしまうー。

小夜たちが、胡桃餅を持ったときのやわらかさや香り。頬張ると、甘さと胡桃のコクがわたしの口のなかにも、ふんわりと広がって、唾ゴックン(笑) 五感が非常に刺激される作品です。

使い魔の霊狐の走る速さに風を感じ、ちょっと痛いとさえ感じたり。躍動感あふれる表現力が、ますます物語の面白さを引き立てます。素晴らしい描写と展開のスピードが魅力。

 

呪者や使い魔など、不思議な世界が描かれていますが、この作品は、愛の物語です。読み終わる頃には、相手を想う純粋な愛を感じるでしょう。命がけで、大事な人を守ろうとする姿に、心底、泣けてくるのです。そして、羨ましくもなります。

最後の最後まで、読み手を夢中にさせる見事な作品です。

狐笛のかなた

『狐笛のかなた』/著 上橋菜穂子
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