『シュトヘル』/ 著 伊藤悠

今日みなさんにご紹介したいのは「シュトヘル」マンガです。全14巻。

舞台は13世紀の初頭のユーラシア大陸。モンゴル草原に生を受けたチンギス・ハンが周辺の国々を圧倒的な力で滅ぼしていき、烈火の如く勢力を拡大しようとしている時代。

いままさに滅びようとしている西夏国の「文字」を残そうと強大な力に立ち向かうひとりの少年と、西夏文字を徹底的に焼き尽くして、何ひとつ残さぬようにせんとするチンギス・ハンとの宿命的な戦いの物語です。

なぜ宿命かというと少年とチンギス・ハンは父子なんですね。「I am your father」って、スター・ウォーズか!

シュトヘル

すぐにわかる親子の特徴=目が同じ

少年は草原に住うツォグ族の族長の子どもとして育てられます。ツォグ族はかつてチンギス・ハン率いるモンゴルに逆らって、敗れたことがあります。この時、族長の妻がチンギス・ハンに奪われて、帰されたときには孕んでいたんですね。

族長は、生まれた子どもにユルール(祝福)と名付けます。モンゴルの属国となったツォグ族の望みは、めざましい活躍をしてモンゴルでの地位を向上させること。武力に秀でた族長の実子ハラバルを先鋒とさせた上で、ユルールを連れてチンギス・ハンに親子の対面をさせようと目論んでいます。

しかしユルールは、みんなが好きな弓や馬や戦いが好きではなく、みんなの興味のない音楽や言葉を好む完全な文化系。

体育会系というよりも、むしろ仁義なき闘争に日々明け暮れるヤンキーのような仲間たちから、ガッカリされながら暮らしています。

シュトヘル

心やさしき少年ユルール

しかも西夏国を滅ぼそうとする最先鋒は、兄のハラバル……いつも虎の被りものをしてる兄ちゃんは「神箭手(メルゲン)」と呼ばれる弓の名手で一度に4本の矢を射て、鉄さえ射抜くことができます。強ぇ。

しかし、このふたりの血のつながらない兄弟は、正反対の性格ながら、お互いに親愛の情を抱いています。しかし、兄がモンゴルの先鋒として西夏国を焼き尽くそうとするのを間近に目撃して、ユルールは文字を守ろうと立ち上がります。

これが物語のはじまり。
ロードムービーのように、旅を通して話は進んでいきます。

文化を保護してくれる南宋まで逃げようとするユルール。文字を滅するために彼を追いかけるモンゴル。弟を連れ戻そうとするハラバル。さらにハラバルに仲間を殺されて、復讐するために彼を追いかける西夏人のシュトヘルも加わり、各地ではモンゴルからの猛攻に反撃しようとする軍人たちも待ち伏せています。

 

ユルールは、無事に西夏の文字を守ることができるのか!?

 

これは国境が日々塗り替えられていく時代における文化と暴力のあいだと仁義なき戦いの物語です。

 

ヒロインは、タイトルにもなってる「シュトヘル」。意味は悪霊(笑)

西夏国の傭兵だった頃のシュトヘルは弱くて、みんなから守ってもらってばかりだったのに、ハラバルの手で仲間が皆殺しされた後は、伝説の狼を噛み殺すことでその力と同化。以降、復讐に取り憑かれ、モンゴルとハラバルを皆殺しにすることだけが生きる道となっていました。

ちなみに狼っ娘というジャンルにおいては、もののけ姫のサンと同系統ですが、シュトヘルのほうがアグレッシブ度は格上です。

シュトヘル

本作のヒロイン。特技は相手の喉笛を喰いちぎること。

ポストフェミニズムを二周ぐらい超えている本作のヒロインは、モンゴルの強兵を殺してまわり、武闘派代表のハラバルとさえ互角に渡り合います。

そんな復讐だけが人生のすべてだったヒロインが、ユルールと出会い、文字と出会って、人生が一変します。

あしたわたしが死んでも、消えないのか……?
わたしの仲間の名前は…この文字が憶えていてくれるのか。

これこそがまさにユルールが命をかけて、成し遂げたかったこと。歴史を、記憶を、命をつなぐこと。破壊と復讐がすべてだったシュトヘルは、生きる道を見出して、以降、ユルールを守ることを選びます。

 

文字を手に入れれば、人は出会うことができる。
時と道のりも越えて。

人が人を知り、結びつくことができる。
扶け合うこともできる。

どんな王の世でも、王の不在でも、いつ現れるかもわからない『すぐれた王』の、来るのかもわからない救いを待つまでもなく、人々自身が人を救う。いつでも。

ユルールは、文字の存在の力をそのように語り、その信念にしたがって、行動します。

残すこと、伝えること、受け継ぐこと……そこに命をかけた少年と、彼を取り巻く激動の時代の物語。

いま21世紀にして、多くのものが終わりゆくときに、そして文字と言葉が氾濫する情報化社会だからこそ、改めて「言葉の持つ力」が確認できるでしょう。さまざまな人物の信念を賭けた生きざまに、心が熱くなるマンガです。

シュトヘル

『シュトヘル』/著 伊藤悠
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