占い師修業時代の思い出

今から20年以上も前のことですが、私は当時、横浜駅のとあるデパートの占いコーナーで占い師として働いていました。

その当時から、これまでも相当の数の方々とお会いしてきましたが、時代なのか、場所柄なのか、90年代終わり頃のそこにはよく変わったお客さんたちがいらっしゃいました。

ちなみに占い師の方も個性的な人が多くて、おそらくみなさんが「占い師」と聞いてイメージする、イロモノの雰囲気をまとっている方が多かったです。

ジプシー風のタロット占い師や、髪の毛を紫に染めて宝石をたくさんつけたおばさま占い師や、中国の仙人を思わせるロング顎鬚ダンディ占い師など、当時から自由な雰囲気に満ち満ちた職場でありました。

よく同じタイミングで占いコーナーに入ることが多く、仲良くなって、たまに一緒にお茶を飲みに行っていたおばあちゃん占い師は、当時70代後半。

彼女はサイババの信者で、何かにつけてサイババの話をするのですが、エキサイトするとサイババが憑依するのか、顔がモーション・キャプチャ一のようにだんだんとババの顔になっていくんですね。

話が終わると、元のおばあちゃんに戻るのですが、当時はそれがすっごく不思議で、いまでもその表情を思い出せます。

当時の占い館にやってきた数々のちょっとヤバイお客さまがいらっしゃるのですが、そのなかでもピカイチに印象深かった人のことを、いまでもよく覚えています。

襟を立てたトレンチコートを着た、30代ぐらいの男性。

人気のない昼間のデパートの隅っこにする占いコーナーに、彼は駆け込んできました。

「どうしましたか?」 と尋ねると「追われているんです」と。

「誰に?」

……実は僕、ロシアのスパイなんです

おそらく今の私なら「へえ、そうなんですね~。それで、それで?」と、ノリノリで付き合ってあげられると思うのですが、当時の私は20代前半。

人気のないフロアで、いつも見まわりで巡回している警備員さんもおらず、ドキドキしていました。

「それで……占ってほしいんですけど」

「……何をですか?」

「僕が逃げ切れるかどうか」

相手は超本気です。私は内心ビビッていましたが、しかし刺激してはいけない!と思い

「じゃあ、タロットで逃げ切れるかどうか、占いましょうか」と、カードを出しました。

それでいいというので、カードをシャッフルして、展開し、読み始めようとすると

「あ、待って下さい。録音します」と、彼がコートの懐から取り出したのは、テープレコーダー……ではなく、黒の革靴でした。

「あー、テスト・テスト……オッケーです。おねがいします」

私は内心「おかあさーーーん」と叫びたい気分でしたが、観念して、真面目に占い始めました。

早くどこかへ行ってほしかったのですが、彼は居座って「俺を追っているのはどんな奴か」「夏まで逃げ切れば、追っ手を振り払えるか」といった謎の質問を立て続けにしてきて、そのたびに私は真面目にカードを読んでおりました。

しかし、ある瞬間に「あ、追っ手が来た……!」と言ったが素早く立ち上がり、あっという間に彼は立ち去ったのです。

彼の言う追っ手とは巡回の警備員さんでした。

警備員さん~!! 無銭占いですよ~!!

自称・ロシアのスパイの彼はそのように、私の占い師人生のごくごく初期に強烈なインパクトを残していったのでした。

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